新型コロナウイルスによる騒動で、ファンの熱気に包まれるスタジアムを懐かしく思います。そんな中、フットボール界においてもオンライン化が進んでいますが、今回はエージェント業務におけるオンライン化の最新ニュースを紹介します。

「ワイスカウト」という名前を耳にされた方もいらっしゃると思いますが、こちらは全世界の選手のプレーを分析できるという画期的なオンライン・サービスで、毎週1000を超える試合数の映像が追加されていく、フットボールに特化した巨大映像プラットフォームになります。エージェントやクラブスカウトは年会費を払ってこのサービスを活用していると聞きますが、1、2年ほど前から、ヨーロッパ市場でこれを超えるプラットフォームが新しく入ってきています。

どのビッグクラブもこのアプリケーションを使用しているという話を聞いたので探ってみたわけなのですが、その新しいプラットフォームの名前は「プレーヤー・レンズ(Player Lens)」というアプリケーションです。どういうものかというと、選手の移籍がこのプラットフォーム上で行われるというのです。移籍マーケットのニュースで「よくこんな選手を見つけたな」と思うことがあるのは皆さんも同じであると思いますが、その中で鍵となるのは、クラブによるスカウティングシステムであることは間違いありません。ヨーロッパと日本を行き来するエージェントに話を聞いたところ、昨今の若手大物選手のピックアップもこのアプリケーションを活用して行われているとのこと。さらにビッグクラブによる話題の移籍のいくつかはこのアプリを通しているということで、有名チームが既に取り入れていることは確かなようです。

プレーヤー・レンズ
プレーヤー・レンズ

そのプラットフォームを少しだけ見せていただいたのですが、簡単に言うと、まるで株取引そのもの。ほぼ全クラブの選手がそこには登録されており、アカウントホルダーはこれを見ることができるのですが、前述したワイスカウトとも連動しており、その場でその選手の映像も見ることができます。クラブスタッフがその選手リストから希望に合う選手をソートすることができ、例えばクラブがFWの選手を欲しいとした場合、身長・体重などはもちろん、プレースタイルや給与などの情報を入力するとその場でソートされ、該当する選手のリストアップが数秒でできてしまうのです。さらにその選手が移籍可能かどうか、移籍希望かどうかまで明記されており、クリック1つで移籍交渉どころかそのまま成立までもっていくことができてしまいます。この選手の代理人は誰だ? などと言い合っている間に金額交渉までされてしまう世界です。現地の報道によると、本来の目的はフリー・トランスファーの選手のためのアプリケーションで、契約満了になってからクラブを探すことに非常に厳しさを感じていた選手のために開発したとありました。

ちなみにですが、2019年は1000選手以上がクラブの希望に当てはまっているにもかかわらず、実際契約どころか接触すらなされていないというデータも上がってきているとのことで、コロナウイルスもあり、人と人が実際に会うことが難しくなってきている中、水面下でいかに交渉を行うかを考えた場合、全く面識がなくても交渉することができてしまう画期的な世界であるように感じます。日本市場を含めてこのオフは選手・クラブにとって今までにない非常に厳しい風が吹くと予測されますから、こういったマッチングシステムを利用してまた1つ新たな世界に入っていくことが予測されます。

完全にデジタルプラットフォームでの契約成立がありえるということですが、そもそも売りに出ている選手なのかどうかなどの調査から入りますから、周囲の思惑による情報操作はなくなるわけで、さらにこの時点で正しい情報に接するという時間的な作業効率はぐっと上がります。そして何よりもFIFAの定める「透明性のある取引」に近づいていると感じます。今までのやり方では、エージェントになりうる人間が、不相応な金額での交渉も可能でありましたが、このシステムであればそういった不当な中抜きも防ぐことができるということでもあります。今回のオンライン化の加速によって、そしてJリーグのクラブもこのようなアプリを取り入れることでクラブの選手獲得戦略にも変化が起こりうるのではないでしょうか。【酒井浩之】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「フットボール金融論」)