阪神、日本ハム、米大リーグで活躍した新庄剛志(48)が7日、神宮球場で行われた12球団合同トライアウトで“決勝適時打”を放った。試合形式のシート打撃で参加者唯一のタイムリーを放ちアピール。NPB40人と社会人、独立リーグなど計32チーム51人の編成担当が集結。56選手が躍動した。新型コロナの影響で無観客開催となったが、15年ぶりに現役復帰を目指す最年長48歳は、抜群の注目度を誇った。(敬称略)

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新庄は実に楽しそうだった。みんな生き残りをかけて顔をひきつらせているのに、1人だけ違ったオーラを漂わせた。

勝負強さは相変わらず。3打席無安打で迎えたシート打撃の最終打席。元ヤクルトの左腕ジュリアスから左前適時打。「打ち方なんて全部消えた。さあ、俺を見てくれという感じの打席だった」。得点圏に走者を置いた場面での安打は唯一。引退から14年たつが、スター健在を見せつけた。

「無観客でめちゃくちゃテンションが下がったけど、ランナーがいてくれてもうアドレナリンが出てボールがよ~く見えた。止まってるんじゃないかというくらいでした」。一塁を回った瞬間にジャンプ。ガッツポーズの後、体を揺らせて喜んだ。「ボールが止まって見えた」と川上哲治氏ばりの名言も吐いた。

昨年11月。インドネシア・バリ島で現役復帰を宣言したが、疑う声が圧倒的だった。「ただのアホやろといわれるの慣れてます」と1年かけて体を鍛え直し、今秋の帰国後も都内近郊の複数の球場を転々。本気で15年ぶりのNPBを目指し、備えてきた。

新庄劇場だった。日本でゴールデングラブ賞を受賞した10回はすべて外野部門。だが、シートノックを受けたのは三塁。強肩を披露したかと思えば、一塁や二塁、中堅、右翼も守ってユーティリティーをアピールした。中堅では阪神の後輩にあたる伊藤隼、田上にアドバイスを送り、元オリックスの白崎にはバットを譲るなど交流した。

また、シート打撃開始前の練習では元日本ハムの捕手、黒羽根の二塁送球が中堅にそれた。処理した新庄はなんと、振り向きざま無観客のスタンドにボールを投げ込んだ。「ファンがいるイメージです」。無観客でも、見えないファンを喜ばせた。

「楽しいね野球は。自分に勝てた気がする」。自身の生きざまを示して満足そう。「6日間でオファーがなかったら、野球は終わりです。きっぱりです。1年間お疲れさまでした。48歳新庄剛志。ですね」とすがすがしい笑顔。新庄劇場に続きはあるのか。吉報を信じて待つ。【寺尾博和】